野口尚男税理士事務所のブログ

青色申告特別控除と貸借対照表

2026年02月17日 14:05

 個人事業者が申告所得税の確定申告を行う場合、白色申告ではなく青色申告を行うこととしたときには「青色申告特別控除」を利用して、100,000円の青色申告特別控除に代えて550,000円(又は650,000円)の青色申告特別控除を利用することが出来る場合があります(租税特別措置法第25条の2)。この要件として、

(1)不動産所得事業所得を生ずべき事業を営んでいること。

(2)これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること。

(3)(2)の記帳に基づいて作成した貸借対照表、損益計算書および所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、その年の確定申告期限(通常は翌年3月15日)までに当該申告書を提出すること。

が国税庁のウエブサイトに示されています。

   https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm

 

 ここで明示されているように、正規の簿記の原則により記帳を行い、これに基づいて貸借対照表、損益計算書(所得税青色申告決算書)及び所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付する必要があります。「収支内訳書」ではありません。

 私は税務職員時代には個人課税部門に在職していたこともあり、また、法人課税部門に在籍時にも確定申告書作成コーナーで業務したこともあります。その時に私が経験した事例もありますが、「貸借対照表」作成の意味を正確に理解しておらず単に550,000円の青色申告特別控除を利用したいとが考えている個人事業者がそれなりの人数いました。具体的な例として、

 1 「貸借対照表」の意味が分からず損益計算書のみを添付している。

    →これは550,000円の「青色申告特別控除」の要件を満たしていません。

 2  「正規の簿記の原則」により記帳を行っておらず、申告書作成会場で「貸借対照表」の各欄に該当すると本人が考えて

  いる金額(年末残高等)を記入している。

    →単純に年末現在の金額を記入しても貸借対照表上の当期利益金額と損益計算書上の当期利益金額は一致しませ

     んし、「貸借対照表の資産の部合計金額」と「負債・資本の部合計金額」も一致しません(稀にワンチャン一致

     する場合もありますが税務調査等で正規の簿記の原則により記帳を行っていないことが分かります)!

     そして一致しないまま確定申告書に添付しても「正規の簿記の原則により記帳を行い、これに基づいて作成し

     た貸借対照表、損益計算書」には該当しませんので550,000円の「青色申告特別控除」は受けられません。

 3   市販の会計ソフトを使用しているのですが、作成者本人が会計ソフトの使い方をよく理解しておらず決算書の見方を

  理解している人が見れば貸借対照表上に異常な数値が計上されていることが分かる。

    →「正規の簿記の原則により記帳を行っていないことが明白」であることから550,000円「青色申告特別控除」は

     受けられません。

等があります。


 ここで言う「貸借対照表」及び「損益計算書」作成については、以下に示したように「Dynamische Bilanz(動的貸借対照表論)」に基づいており、20世紀初頭にドイツの会計学者Eugen Schmalenbach(オイゲン・シュマーレンバッハ)によって提唱された会計理論に依っています。

 その概略を言うと、事業者の利益は事業の発生から消滅までの間に生じた財産の増加額ですが、発生から消滅までの期間は長期になることが多く、また、消滅(清算結了・倒産・破綻を意味したりします)を前提としている事業は基本的に存在しない(「継続企業の公準」)ため一定の期間(通常は1年)を区切って損益を計算する必要が生じます(期間損益の計算)。これに伴い、例えば設備投資を行った場合等この減耗部分を使用(可能)期間に配分する必要が生じます(費用配分の原則)。ここで未だ配分されていない費用を示すものが「貸借対照表」になります。つまり、「実際の現金等価物」と「未だ配分されていない費用」の塊を表示した表が「貸借対照表」となります。

 従って、正規の簿記の原則による記帳(一般的には複式簿記による記帳)が必要となります。これは現代の企業会計基準(収益費用アプローチ)の基礎となっており、「発生主義」による会計処理や、減価償却の概念などはこの動的貸借対照表理論の考え方に強く支えられています。 

  確定申告書の作成時における貸借対照表及び損益計算書等についても同様にこの「動的貸借対照表論」が根底にあります。安直に550,000円の「青色申告特別控除」は使用できないのです。先程記載したとおり申告書作成会場で「貸借対照表」の各欄に該当する年末残高の金額を記入しているものはシュマーレンバッハの言う「動的貸借対照表」ではなく「静的貸借対照表」又は会社法第492条に規定している「財産目録」に過ぎません。「動的貸借対照表」を作成するには複式簿記による日々の記帳等が必要となります。

 日本の税制では確定申告に際しては「申告納税制度」により自主申告を行う必要がありますが、「そんなことは時間的にできない」とか「よく分からない」と言う場合には税の専門家である「税理士」に依頼する方法があります。尚、「税理士」の資格を有しないものは税理士法第52条により有償・無償を問わず「税理士業務」をすることはできません。


(注) 「青色申告特別控除」を利用する前提となる「青色申告」を選択する条件としては国税庁の以下のサイトを確認して

  ください。

    https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm

 

   また、不動産所得と山林所得については「事業的規模」でないと100,000円の青色申告特別控除しか認めていません。

     https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm

 

  雑所得については青色申告特別控除自体適用がありません。所謂サラリーマンの副業は一般的には雑所得であり、事

 業所得とは言えませんので、青色申告特別控除を適用すること自体出来ません。

 これは令和7年分の確定申告書の作成時(令和8年2月16日現在)の法令(所得税法等)に基づいて記載したものであり、「令和8年度税制改正大綱」において「青色申告特別控除」適用要件の見直しが記載されているため今後適用要件が改正される可能性があります。