税務調査について2 (所謂「見解の相違」について)
2026年01月26日 14:11
マスコミ報道等で「税務調査の結果申告漏れが指摘された・・・」等で報道された後の取材で「国税当局との間で見解の相違があった・・・」との報道がなされることがあります。
記事の内容を読むと「それは見解の相違ではない!単なる言い訳を見解の相違と主張しているに過ぎない!」場合が殆どですが、中には本当に「見解の相違では・・・」と思われる事項も存在します。
インド発祥の寓話として「群盲象を評す(ぐんもうぞうをひょうす、群盲評象)」と言い、数人の盲人が象の一部だけを触って感想を語り合う話があります。この話には数人の盲人(または暗闇の中の男達)が登場する。盲人達は、それぞれゾウの鼻や牙など別々の一部分だけを触り、その感想について語り合う。しかし触った部位により感想が異なり、それぞれが自分が正しいと主張して対立が深まって・・・
商人が遠いインドから象を連れてくる。
1 村人たちは暗闇の中で象に触れる。
2 鼻に触った人は「ヘビのようだ」と主張。
3 耳に触った人は「扇(うちわ)のようだ」と主張。
4 足に触った人は「木の幹のようだ」と主張。
5 胴体に触った人は「壁のようだ」と主張。
6 尻尾に触った人は「ロープのようだ」と主張。
7 牙に触った人は「槍のようだ」と主張。
8 皆、自分の触った部分が全てだと信じ込み、激しく言い争う。
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ここでの教訓としては、以下の点が挙げられます。
1 真実の多面性: 物事には様々な側面があり、一部分だけを見て全体を理解することはできない。
2 先入観の危険性: 自分の経験や知識だけで全てを判断すると、誤った結論に達することがある。
3 多様な意見への傾聴: 他人の意見にも耳を傾け、多角的に物事を捉えることの重要性。
実は税務調査でも「群盲象を評す」が問題になったりします。税務調査においては行った事象についてその「課税要件となる事実」より判断して課税の適否を行います。先に記載した「群盲象を評す」は極端な例ですが、税務調査でもこれに似た例が見受けられる場合があります。納税者の行った事象全体を見ないで課税の適否を判断しているものはほとんど無いと思いますが、「課税要件となる事実」の全体を見たうえで行った行為のどこに重要なポイント置くかによって課税の適否が変わる場合があります。
具体的な例としてよく掲載されるのが「萬有製薬」事案です。この事案の概要は以下のとおりです。
1 医薬品製造会社(萬有製薬㈱)が取引先である大学病院の医師から医学論文の英文添削を依頼されました。
2 萬有製薬㈱は外国の添削会社にその添削を依頼しました。
3 萬有製薬㈱側では
「(大学病院の医師からの添削料収入)×3」<「外国の添削会社に支払った添削料」
となっていました。
4 国税局ではその差額を損金の額に含めていたことに対して、その差額は租税特別措置法に定める「交際費等」に該当するため損金不算入となるものであるとして更正処分を行いました。
よくこんな一見不自然とも思える取引を把握した事は流石国税局の調査だと思いましたが、これだけの事実から私が判断するとすれば、該当する「差額」は「交際費等」又は「一般寄附金」のどちらに該当するのではと思いました。どちらに該当するかは具体的取引内容、取引を行うに至った経緯等を多方面から詳細に検討する必要があると思いました。尚、交際費等については交際費等の損金不算入額(現在は租税特別措置法第61条の4)の計算があり寄附金についても損金算入額(法人税法第37条)の計算があり、その全額が損金の額に含まれるわけではありません。
第1審(東京地裁判決)では「交際費等」に該当するものとしていましたが・・・第2審(東京高裁)では以下のとおりとなりました。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-20102.pdf
事案の詳細については多くの弁護士や税理士が評論をしていますので詳細についてはここでは触れませんが、最終的には交際費等に該当しないとの裁判所の判断でした。
企業が行った経済行為についてはその事実だけではなく、それを行うに至った背景等を検討する必要があります。実際は背景等は一つの要因からなるものではなく複数の要件が複雑に絡まりあっている場合が殆どです。その中の要因のうちどの要因(複数の場合もあります。)が行った行為の重要なポイントなのか・・・については事実の確認ではなく、「事実の認定」ということななります。私のウエブサイトで書いてあるように、各経済主体の行った経済活動については所得税法、法人税法等に規定する「税に関する法令のフィルター」を通すことによって課税要件事実の判断を行います。経済主体の行った行為の「認定」なのです。行うべき判断は経済主体の行った行為のあくまでも「認定」なのです。「認定」には判断者の「主観」が加味される場合があります。「主観」は人それぞれ違いますので所謂「見解の相違」が生ずる余地があります。巷間行われている経済活動は法令にそのものズバリ規定している取引はほとんどなく、税に関するフィルターを通しても明確に白黒がつくものはほとんどありません。殆どが「灰色」ですが、「白に近い灰色」なのか「黒に近い灰色」なのか・・・ ここに「事実認定」で「主観」が入る場合があります。
税に携わる者としては「群盲像を評す」の故事の意味をよく考えて「事実認定」をしなければなりません。税理士は税理法第1条の規定により「独立した公正な立場」で判断を行うことは言うまでもありません。
余談になりますが、中には「まず結論ありき。」でそれに都合の良い事柄のみを声高に主張して事実認定を行う者(納税者・税理士・国税職員等様々です)も存在する場合があり、論争になったり訴訟になったりする事があります。
(注) 文中に具体的な企業名が記載してありますが、判例解説等のウエブサイトにおいても企業名が明示されているため企業名を記載しました。